放送法制定の歴史のススメ-①放送法はいつできたの?

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放送法を考えるためには、放送法制定の歴史をよく知っておくことが大切だろう。どのような法律もその制定経過にさかのぼることによって、条文の意味を理解することができるからだ。何回かに分けてまとめてみたい。

放送法ができたのは1950年。電波法と電波監理委員会の3つの法律がセットで作られたことから、あわせて「電波三法」と呼ばれている。第二次大戦の敗戦後のGHQによる占領期だった。放送法には日本を民主化しようと試みた工夫が随所にみられる。

制定の歴史にはいくつかの波がある。

  1. 日本国憲法の誕生から放送法の骨格が決まるまで
  2. 第一次放送法案の作成
  3. 現行放送法の案作成
  4. 国会審議
  5. 電波監理委員会の廃止

まず、日本国憲法の誕生から放送法の骨格が決まるまでを見てみよう。


日本国憲法の誕生

日本国憲法が国会で成立・公布されたのは、1946年11月3日で、施行されたのは翌年の1947年5月3日。基本的人権の尊重、三権分立、平和主義を3つの原則とする日本国憲法は、明治憲法とは根本的に異なるものになった。明治憲法下で作られたさまざまな法律は、日本国憲法に合わない部分があったので、一部改正されたり、全部廃止されたりした。その一環として、放送法が作られた。


放送には無線電信法が適用されていた

放送法ができるまでは、放送には大正時代にできた無線電信法が適用されていた。無線電信法ができたころは、まだテレビはなかった。放送は私設無線で、逓信大臣が電波の使用を許可し、政府が電波を専有していたから、放送が国家に管理される土壌があった。無線電信法の条文は、政府のウェブサイトでは確認できないけれど、「電気通信主任技術者総合情報」という個人のサイトに「電気通信関連法令集」というページの「廃止法・旧法」という箇所に条文が掲載されている。

1939年から実験放送がされていたようだが、本格的なテレビ放送が始まったのは1941年。それから70数年が経っている。もちろん最初は白黒放送。そのころは民間放送はなく、社団法人日本放送協会だけが放送していた。ちなみにカラーの放送が始まったのは1954年。前の年の1953年に、日本で最初の民間放送を日本テレビが始めている。


GHQから示唆

古い無線電信法は、テレビ放送に合わなかったし、何よりも戦前・戦中のテレビ放送が戦局について日本国民に誤った情報を流していたことに対する反省があって、日本国憲法の民主主義に合うように、表現の自由を確保して、自由に政治に対する批判を述べることができる社会を作る必要があった。 日本国憲法が国会で議論され、成立・公布が迫るなか、1946年10月、GHQの民間通信局(CCS:Civil Communication Section)が逓信次官にあてて、国民が基本的に通信の自由を持つという新憲法に合うように通信を民主化するように指示した。 逓信省は、同じ年の11月、次官を委員長とする臨時法令審議委員会を設置して、通信の関連法令の改正に着手した。1947年2月、4月、6月にそれぞれ無線電信法の改正案が作成される。6月の法案は、無線法の改正案と日本放送協会法案の2つの法案になっていた。 これらの法律案の条文はいまとなっては、文書が残っておらず正確には分からない。ただ、荘宏・松田栄一・村井修一『電波法 放送法 電波監理委員会設置法詳解』(日信出版、1950年)には、それらの改正案の骨子が紹介されている。

こうした逓信省の立法作業と並んで、GHQ民間通信局も放送に関する法律の検討をしていた。多くの文献が指摘しているように、日本の放送のあり方に大きな影響を与えたのは、ファイスナー・メモである。これは、1947年10月16日に、GHQ民間通信局のファイスナー調査課長代理が示唆した内容である。 放送法の制定について調べるときに、とても役に立つのが、放送法制立法過程研究会編『資料・占領下の放送立法』財団法人東京大学出版会(1980年)。GHQと逓信省のやり取りなどの資料がまんべんなく掲載されている。それによると、ファイスナー・メモは次のようなものだった。

  • 新しい法律は、①放送の自由、②不偏不党、③公衆に対するサービスの責任の充足、④技術的諸基準の順守の4原則に立つこと
  • あらゆる種類の放送を管理し、国内放送、国際放送を運用する機関の設立を規定すること。この機関は、すべての日本政府の行政官庁、政党、政府の閥、政府の団体、個人の集団等から完全に独立した「自治機関」でなければならない。
  • 将来、日本の経済状態が許す時が来た場合には、民間会社による放送を認めることができるように、民間放送の助長に備えた規定を設けておくこと

このファイスナー・メモにしたがって、逓信省が放送法案の策定を進めていく。

続きは「放送法制定の歴史のススメ②」へ。

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