放送法の理解がすすむ本8選+α

放送法って難解。長い議論があるから早わかりというわけにはいかないけれど、数冊読みこむとだんだんと理解できる気がします。私が読んだおススメ本8冊とまだ読んでいないけれどおもしろそうな新刊1冊を紹介します。

1 放送法をよみとく

鈴木秀美・砂川浩慶・山田健太 (編著)  商事法務(2009年)

編集をしている鈴木秀美氏は慶應義塾大学教授、砂川浩慶氏は民放連出身で現立教大学教授、山田 健太氏は新聞協会出身で現専修大学教授。ほかの執筆者も放送に詳しい人ばかり。

番組編集準則について、放送法制定の歴史のほか、制定時の立法担当者の書籍を紹介するなど、詳しく書かれている。その後の政府の見解なども書かれている。7年前の本なので、放送法の条文数が現在とは異なることが気になるものの、何が問題なのかを理解するためには、この本からスタートしてはどうだろう。 

 2 放送法逐条解説〔改訂版〕

金澤薫(著) 情報通信振興会(2012年)

総務省の元放送行政局長、その後事務次官になった著者が書いていて、『放送法を読み解く』とは対極的なところに位置する本。1つ1つの条文ごとに、放送法の解釈が書かれている。「個人的な見解」と一応断り書きがあるが、内容は、総務大臣や総務省官僚の国会答弁に出てくる内容とそっくりの部分が多い。総務省での実務的な考え方を紹介しているといっていいだろう。

総務省の番組編集準則の解釈に対する批判は強いが、たとえ批判する立場であっても、孫子の兵法「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」のとおり、まず総務省が何を考えているのかをきちんと押さえておくことが必要ではなかろうか。

 

3 テレビの憲法理論 テレビの憲法理論―多メディア・多チャンネル時代の放送法制

テレビの憲法理論―多メディア・多チャンネル時代の放送法制

長谷部恭男(著) 弘文堂(1992年)

東京大学を退職し現在は早稲田大学で研究・教育をしている長谷部恭男教授の本。この本は放送について憲法的視点から考えるときに必ず登場する。番組編集準則だけではなく、テレビが活字メディアと異なり、なぜ法律による規制がなされているのかについて詳しく学ぶことができる。アメリカの議論を参考にしながら、部分的規制論という考え方をとっている。部分的規制論は有力説。

少し古いのだが考え方が変わっているわけではないだろう。その後、長谷部恭男・金泰昌編『公共哲学12 法律から考える公共性』東京大学出版会(2004年)に、論文「ブロードバンド時代の放送の位置付け――憲法論視点から」も掲載している。

 

4 マス・メディア法入門〔第5版〕

松井茂記(著) 日本評論社(2013年)

松井茂記教授はカナダのブリティッシュ・コロムビア大学教授で、表現の自由の分野でとても有名な先生だ。カナダで教える前は大阪大学の教授だった。

この本はロングセラーで第5版にもなっている。メディアに表現の自由が保障されていないのではないかという疑問を持っている人には、しっくりくる記述が多いと思う。放送については、第四部でまとめて書かれている。松井先生は番組編集準則は違憲という見解だ。違憲という見解は昔から根強い。近年の政治介入の現状を憂えて違憲説を唱える人も増えているのではないだろうか。

 

5 放送の自由

鈴木秀美(著) 信山社(2000年)

『放送法をよみとく』の編著者の1人鈴木秀美教授が書いている単著だ。きわめて専門性の高い本でその後改定はされていないようだ。放送の問題が起きるたびに、鈴木教授のコメントがメディアで紹介されるほど放送法制を熟知している第一線の研究者だ。精力的に論文を発表しているから、是非それらをまとめて1冊の本にしてほしい。

そうそう、鈴木教授は、岩波「世界」の2016年1月号に、この問題に詳しくない人でも理解できる分かりやすい論稿「放送法の『番組編集準則』と表現の自由」を書いている。まずは、これから読んでみるのもいいかもしれない。

 

6 放送の自由の基層

西土彰一郎(著) 信山社(2011年)

『放送法をよみとく』の執筆者の1人で、西土彰一郎成城大学教授が書いている単著。鈴木秀美教授と同じでドイツのことが豊富に書かれている。少し文章が難しいのだが、若手の研究者で放送を専門的に研究している学者だから、やっぱり読んでおく必要があるだろう。

 

法律の議論をあまり知らない場合には、メディアに関する法律を全般的に概説した基本書を手に取ってみてはどうでしょうか。Professor松井の本は基本書としても読みやすいし、細かいところにも目が行き届いています。次の2冊もおすすめ。 

7 情報法概説

曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕(著) 弘文堂(2016年)

曽我部真裕京都大学教授、林秀弥名古屋大学教授、栗田昌裕龍谷大学教授の3人が執筆者だ。京都大学の大学院グループつながりで書いているもよう。わかりやすい筆致で情報法を網羅的に扱った基本書だと思う。番組編集準則のこともコンパクトに書かれている。

 

8 法とジャーナリズム [第3版]

山田 健太 (著) 学陽書房(2014年)

『放送法をよみとく』の編著者の1人山田健太教授の単著だ。第3版になっているロングセラーの本。ジャーナリズムのことを知りたい人は必読。表や図も多くビジュアルでとてもわかりやすい。

 

まだ読んでいないのですが、山田教授の新刊本が出たらしいです。楽しみです。

+α 放送法と権力

山田 健太 (著) 田畑書店(2016年)

出版されたばかりの新刊本。アマゾンの内容紹介では、「高市早苗総務相の『電波停止』発言、あるいは『放送法遵守を求める視聴者の会』の新聞全面広告など、誤解が誤解を生みつつある放送法……その正確な意味を伝えつつ、報道の自由度の世界ランクが72位まで下落したこの国の『言論の自由』の危機がどこに由来するのかを、メディア論の第一人者が冷静沈着に論じきった唯一無二の論考。今後のジャーナリズムを考えるに当たって避けては通れない一冊!」とある。

これは読まずにはいられまい。

 

ここで紹介した本はごく一部です。研究者や制作者が書いた定評のある本が他にもあります。引用される回数が多いかどうかが、選ぶ際の指標の一つになると思います。