[早わかり]政務活動費―透明性が求められるのはなぜ?

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 2016年7月頃から、富山市議会の政務活動費の不正受給をめぐって報道が続いている。会社などから白紙領収書をもらい金額を書きいれて、その分の政務活動費を違法に受領したなどで、10月4日現在で12人の市議が辞職したとのことである。富山市議会の議員定数は40人であるから、4分の1余の市議が政務活動費を不正に使用していたことになる。同様の問題は、他の地方自治体で問題になっている。兵庫県議会の議員の政務活動費の不正受給の問題が記憶に刻まれている方も多いことだろう。
 情報法の観点からすると、政務活動費の問題は地方議会の情報公開が問われる一面でもある。ざっと政務活動費の仕組みを見てみよう。


政務活動費とは

 政務活動費とは、地方自治法100条14号に記載されている地方議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費を指す。2000年(平成12年)に地方自治法の改正により新設された規定だ。改正当時は、「政務調査費」という名称だったが、2010年(平成22年)の地方自治法の改正により、費用の使途の範囲が広がり「政務活動費」という名称に変更がなされている。

 具体的な政務活動費が何かであるが、富山市を例にとると、富山市議会政務活動費の交付に関する条例で、次のようなものがあげられている。

 

項目内容
調査研究費 会派が行う市の事務、地方行財政等に関する調査研究及び調査委託に関する経費
研修費 会派が研修会を開催するために必要な経費、団体等が開催する研修会の参加に要する経費
広報費 会派が行う活動、市政について住民に報告するために要する経費
広聴費 会派が行う住民からの市政及び会派の活動に対する要望、意見の聴取、住民相談等の活動に要する経費
要請・陳情活動費 会派が要請、陳情活動を行うために必要な経費
会議費 会派が行う各種会議、団体等が開催する意見交換会等各種会議への会派としての参加に要する経費
資料作成費 会派が行う活動に必要な資料の作成に要する経費
資料購入費 会派が行う活動のために必要な図書、資料等の購入に要する経費
人件費 会派が行う活動を補助する職員を雇用する経費
事務費 会派が行う活動に伴う事務遂行に要する経費

  

 調査研究その他の活動以外の費用たとえば私的な費用や選挙活動などには、政務活動費を使用することはできない。

 名前が変わる前の政務調査費の金額は、2009年(平成21年)4月1日の総務省の調査によると、都道府県で最も高額なのは東京都で60万円/月であり、政令指定都市では大阪市の60万円/月であった。最も低額なのは、都道府県で鳥取県等の25万円/月であり、政令指定都市では千歳市等の2500円/月であった。
 なお、問題となっている富山市の政務調査費は、議員1人当たり15万円/月で、会派の人数分の金額と加算額(会派の人数による)を合計した金額が会派に交付されることになっている。

 政務活動費が導入された経緯

 さて、政務活動費(政務調査費)はなぜ議員に支払われることになったのだろう。
 直接的には、1999年(平成 11 年)の地方分権一括法(正式名称は「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」)の成立が関係している(施行は翌年4月1日)。
 

 地方分権一括法は、その名称からもわかるとおり、国の機関委任事務の廃止や国の地方自治体への関与が見直され、国から地方自治体へ権限が移す法律だった。これに伴い地方議会議員の役割は各段に重くなり、権限も広くなった。つまり地方議会の審議能力を強化するとともに、地方議員の調査活動基盤の充実を図ることが必要とされた。そのためには、活動費も必要となる。


 国会に提出された際の法案の条文と提出理由は次のようなものだった。なお、このときは、現在の条文とは異なり、議員の調査研究のための費用に限定されていた。

【法案】

13 普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務調査費を交付する ことができる。この場合において、当該政務調査費の交付の対象、額及び交付の方法は、条例で定めなければならない。

14 前項の政務調査費の交付を受けた会派又は議員は、条例の定めるところにより、当該政務 調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。

【提案理由】

斎藤斗志二委員長

 

 本年4月1日に施行された地方分権一括法により、地方分権は今や実行の段階を迎えることとなり、地方公共団体の自己決定権や自己責任が拡大する中で、地方議会が担う役割はますます重要なものとなっております。

 地方議会は、住民の負託にこたえ、幅広い活動を行っておりますが、審議が複雑化、高度化し、委員会審査の一層の充実が求められる中で、さらに積極的、効果的な議会活動を行っていくためには、現行法における人口段階別の常任委員会数の制限を廃止し、それぞれの議会の判断に基づいて常任委員会数を決定できるよう制度を改善し、地方議会の自主性、独自性を尊重していく必要があります。

 また、地方議会の活性化を図るためには、その審議能力を強化していくことが必要不可欠であり、地方議員の調査活動基盤の充実を図る観点から、議会における会派等に対する調査研究費等の助成を制度化し、あわせて、情報公開を促進する観点から、その使途の透明性を確保することが重要になっております。

さらに、地方公共団体の公益に関する事件については、国会で審議できるものも多々あることから、地方議会が国会に対して意見書の提出ができるようにすることも議会の活性化に資するものと思料されるのであります。

以上のことから、地方分権の進展に対応した地方議会の活性化に資するため、本起草案を提出することとした次第であります。

 次に、本案の内容について御説明申し上げます。

まず第一に、地方議会の意見書を、関係行政庁のほか、国会にも提出することができるものとしております。

 第二に、地方公共団体は、条例により、地方議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として、議会における会派または議員に対し、政務調査費を交付できるものとするとともに、政務調査費の交付を受けた会派または議員は、その収支状況を議長に報告するものとしております。

 第三に、地方議会における人口段階別の常任委員会数の制限を廃止するものとしております。

 なお、本案は、公布の日から施行するものとし、政務調査費に係る改正部分については、平成十三年四月一日から施行するものとしております。

 以上が、本起草案の趣旨及び内容であります。

第147回国会衆議院地方行政委員会第11号会議録

  

 でも、同じような費用を議員に支払っていた地方自治体もあった。少し古い文献だが、2008年(平成20年)の国立国会図書館の調査と情報第608号「政務調査費制度の概要と近年の動向」に簡潔な説明が載っている。この説明によると、地方自治体では、地方自治法232条の2の「普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる」という条文(現在も同じ規定)を根拠にして、調査研究費、調査交付金等の名称で補助金を支給していたのだという。 

 しかし、補助金の支給は地方自治体の首長が支給の決定の可否について裁量を持つため、対等であるべき首長と会派の関係がゆらぐという問題が指摘されていた。

 さらに、領収書が添付されていない簡易な報告を許容する自治体もあって、支出先や金額が不明で透明性に欠けるという批判もあったらしい。

 

政務調査費から政務活動費へ

 その後、2012年(平成24年)に地方自治法の改正があり、政務調査費は政務活動費へと変わっていく。交付の目的が「議会の議員の調査研究その他の活動に資するため」となり、「議会の議員の調査研究に資するため必要な経費」だけにとどまらないことになったわけだ。そして、「議長は、政務活動費については、その使途の透明性の確保に努める」という規定も併せて新設された。
 こうした改正があったのは、地方議会議員の活動をさらに充実させるためだろうが、一方で「その他の活動」にも広く使用できることから使途の説明について、なお一層の透明性が求められ、住民への説明が必要になったということであろう。
 もちろんその背景に、政務調査費が私的な用途で使用された例があったことはいうまでもない。議員が不正使用額を返還したり、辞職をしたケースもあった。検索エンジンで、政務調査費、不正受給などのキーワードを入れると多くの事例の報道を確認することができる。

 政務調査費が適正に使用されているかどうかを調べるためには、まずは領収書等の裏付けがあるか、あるとしてもその領収書の内容に不審な点はないかを点検する必要がある。
 従前、収支報告書に領収書等の添付を義務付けていない地方自治体が多かったようで、先の国会図書館の文献では、2008年(平成 20 年 )2 月 15 日時点で、都道府県において、すべての支出に領収書等の添付を義務付けている議会は 13府県で、一部の支出について領収書等の添付を義務付ける議会は11道府県と、合計24道府県にとどまっていた。その主な理由は、議員の政治活動を狭め制限することになるというものだったらしい。ところが、地方自治法の改正前後から増加し、2009年(平成21年)4月1日の調査では、都道府県は45団体と急上昇している。透明性の確保に努める旨の規定が入ったことも影響しているのだろう。

 

政務活動費の申請と報告

 政務活動費の申請はどうなっているのだろう。
 申請方法は、多くの自治体で共通しているようだ。

 最初に、会派または議員が交付申請書を自治体の首長に提出し申請する。

 問題の富山市も同じだ(条例4条)。富山市の交付申請書は、
富山市議会政務活動費の交付に関する規則様式が載っている。政務活動費は、「会派又は議員」に交付されるものなのだが、富山市の場合は、条例で「会派」(1人を含む)としている。
以下、分かりやすさという観点から、富山市の様式で手続を確認していくことにする。

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 交付申請書を受け取った首長は、交付の有無と金額を決定して、決定通知書を発する(条例5条)。

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 実際に交付を受けるためには、会派が交付請求書を市長に提出する必要がある(条例6条)。

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 情報公開が問われる報告についてだが、報告は、会派が政務活動費の収支報告書を議長に提出して行い(条例9条)、この収支報告書の写しを議長が市長に送付する(規則4条2項)。

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 そして収支報告書には、市の条例で領収書等証拠書類の写しを添えることになっている(条例4条4項)。これらは5年間保存される。

  こうした手続の流れを見てくると、収支報告書と領収書等の証拠書類の原本は議長ののところにあるので、つまり議会事務局で保管していることになるということだろう。また、議長が市長に写しを送付することから、市長の下にも写しがあるのかもしれない。

  支報告書や領収書等をホームページで公開している自治体もある。しかしそうした自治体はそれほど多くはない。住民が市議会議員の政務活動費の使途の適切さを知ろうと思ったら、議会事務局にある収支報告書と領収書等の証拠書類の情報公開請求をする必要があるのだ。
 

  ざっと政務活動費について見てきたが、次回は地方議会の事務局で起きている政務活動費に関する情報公開請求について、事務局が情報公開請求があったことや、請求者である報道機関や個人の名前を議員に知らせていた問題について考えてみようと思う。

 

 2016年10月8日更新:続きを読むを挿入し、スクロールが長くならないように調整。文字の不統一を修正。