政務活動費の情報公開請求を議員に教えていいの?/情報公開と個人情報保護の観点から考える

f:id:informationlaw:20161005054209j:plain

 近頃なにかと話題の政務活動費。これが適正に使用されることはもちろん大切なことなのだが、これに関連して情報法にかかわる問題が生じていることにも目を向けたい。自治体の議会事務局が政務活動費の情報公開請求者の名前を知らせていたことだ。情報公開の観点からも、個人情報保護の観点からも大きな問題がある。
 政務活動費とは何かについては、前回の記事"[早わかり]政務活動費―透明性が求められるのはなぜ?”で書いたのでそちらを見てほしい。

 

  • 議会事務局が情報公開請求を議員に伝えていた事例一覧
  •  情報公開の観点から何が問題になるのか?
    • まず具体的事例から
    • 情報公開は調査報道の手段
    • 政務活動費の収支報告書と領収書の閲覧方法
    • 情報公開条例の目的と請求者
    • 情報公開請求に理由を書く必要はあるか
    • 情報公開請求を議員に知らせるのがなぜ問題となるのか
  • 個人情報保護の観点から何が問題になるのか?

 

議会事務局が情報公開請求を議員に伝えていた事例一覧

 報道を確認した限りで、現在までさまざまな自治体で、議会事務局が情報公開請求の事実または請求者の氏名を議員に伝えていた事例として、次のようなものがある。富山市のケースが問題になったため、各地の報道機関が確認したことから発覚したのだろうが、他にも隠れているケースがあるかもしれない。

自治体名漏れた先漏れた情報参考にした記事
兵庫県・明石市 市議会全7会派幹事長 報道機関名 読売新聞9月23日
富山市 市議2人 報道機関名 毎日新聞9月21日
金沢市 各会派の代表者会議 報道機関名 毎日新聞9月21日
金沢市 全市議 開示請求の事実 朝日新聞9月22日
鳥取市  議会運営委員会 報道機関名・開示予定時期 日経新聞[共同通信配信]9月23日
北九州市 会派経理担当者 報道機関名・市民団体名、請求内容 西日本新聞9月24日
川崎市  開示請求対象の市議 報道機関名・記者名 毎日新聞9月24日
徳島県・小松島市 全市議(メールで一斉送信) 市民団体名と代表者名 産経新聞WEST9月24日
長野・諏訪市 議会運営委員会 報道機関名・開示請求決定 毎日新聞9月25日
長野・茅野市  議会全員協議会 報道機関名・開示請求決定 毎日新聞9月26日
愛媛県・今治市 議会運営委員会の市議8人 情報公開請求の申請書のコピー 産経新聞WEST9月26日
佐賀県・武雄市 市議 開示請求の事実 佐賀新聞9月27日
大阪府・富田林市 議会運営委員会の市議9人 報道機関名 NHKオンライン9月27日
大阪府・阪南市 複数の市議 請求者名 NHKオンライン9月27日
山形市 各派代表者会 請求者名・請求内容 毎日新聞9月29日
大阪府・和泉市 開示請求対象の市議 報道機関名 産経新聞WEST9月30日
大阪市・豊中市 各会派代表者 請求者の属性(報道機関名・市民) 毎日新聞10月1日
広島市・呉市 各会派代表者 報道機関名 毎日新聞10月1日
山形県・鶴岡市 各会派代表者 開示請求の事実 山形新聞10月1日

  これらの多くは、報道機関名や情報公開請求の事実を伝えたもので、請求者名そのものを伝えた議会事務局は少ないのが特徴である。つまり、報道機関名は「個人情報」ではないので伝えることはかまわないというのが前提となっている可能性がある。また、情報公開請求の事実を伝えることには何ら問題はないという意識も見え隠れする。
 果たしてそれでよいのだろうか。

続きを読む

[早わかり]政務活動費―透明性が求められるのはなぜ?

f:id:informationlaw:20161005033554j:plain

 2016年7月頃から、富山市議会の政務活動費の不正受給をめぐって報道が続いている。会社などから白紙領収書をもらい金額を書きいれて、その分の政務活動費を違法に受領したなどで、10月4日現在で12人の市議が辞職したとのことである。富山市議会の議員定数は40人であるから、4分の1余の市議が政務活動費を不正に使用していたことになる。同様の問題は、他の地方自治体で問題になっている。兵庫県議会の議員の政務活動費の不正受給の問題が記憶に刻まれている方も多いことだろう。
 情報法の観点からすると、政務活動費の問題は地方議会の情報公開が問われる一面でもある。ざっと政務活動費の仕組みを見てみよう。


  • 政務活動費とは
  •  政務活動費が導入された経緯
  • 政務調査費から政務活動費へ
  • 政務活動費の申請と報告

政務活動費とは

 政務活動費とは、地方自治法100条14号に記載されている地方議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費を指す。2000年(平成12年)に地方自治法の改正により新設された規定だ。改正当時は、「政務調査費」という名称だったが、2010年(平成22年)の地方自治法の改正により、費用の使途の範囲が広がり「政務活動費」という名称に変更がなされている。

 具体的な政務活動費が何かであるが、富山市を例にとると、富山市議会政務活動費の交付に関する条例で、次のようなものがあげられている。

 

項目内容
調査研究費 会派が行う市の事務、地方行財政等に関する調査研究及び調査委託に関する経費
研修費 会派が研修会を開催するために必要な経費、団体等が開催する研修会の参加に要する経費
広報費 会派が行う活動、市政について住民に報告するために要する経費
広聴費 会派が行う住民からの市政及び会派の活動に対する要望、意見の聴取、住民相談等の活動に要する経費
要請・陳情活動費 会派が要請、陳情活動を行うために必要な経費
会議費 会派が行う各種会議、団体等が開催する意見交換会等各種会議への会派としての参加に要する経費
資料作成費 会派が行う活動に必要な資料の作成に要する経費
資料購入費 会派が行う活動のために必要な図書、資料等の購入に要する経費
人件費 会派が行う活動を補助する職員を雇用する経費
事務費 会派が行う活動に伴う事務遂行に要する経費

  

 調査研究その他の活動以外の費用たとえば私的な費用や選挙活動などには、政務活動費を使用することはできない。

 名前が変わる前の政務調査費の金額は、2009年(平成21年)4月1日の総務省の調査によると、都道府県で最も高額なのは東京都で60万円/月であり、政令指定都市では大阪市の60万円/月であった。最も低額なのは、都道府県で鳥取県等の25万円/月であり、政令指定都市では千歳市等の2500円/月であった。
 なお、問題となっている富山市の政務調査費は、議員1人当たり15万円/月で、会派の人数分の金額と加算額(会派の人数による)を合計した金額が会派に交付されることになっている。

続きを読む

放送法制定の歴史のススメ――番外編・年表

 

f:id:informationlaw:20161002175730j:plain

 

 放送法制定の歴史について5回に分けて記事を書きましたが、流れを簡単に見渡したり、あれっていつのことだっけと年月日を確認するためには、やはり年表が見やすいのではないかと思うので、まとめてみました。 

 

年   月    出 来 事
1945年 11月 GHQ民間通信局(CCS)から逓信省に「日本放送協会の再組織」と題するメモ(通称「ハンナー・メモ」)交付。日本放送協会会長に助言するために、各分野を代表して15人から20人の男女を選び顧問委員会を結成することを示唆。顧問委員会は「放送委員会」として発足
1946年 10月 GHQの民間通信局(CCS)が逓信次官にあてて、国民が基本的に通信の自由を持つという新憲法に合うように通信を民主化するように指示
  11月3日 日本国憲法成立・公布
  11月 逓信省が臨時法令審議委員会を設置。通信の関連法令の改正に着手
1947年 2月 無線電信法改正案作成
  4月 無線電信法改正二次案作成
  5月3日 日本国憲法施行
  6月 無線法案のほか日本放送協会法案の作成:電波監理と放送のあり方は別の法律で規律
    第二次読売争議、10月には一部の新聞でストライキ
  10月1日 日本放送協会の顧問委員会である「放送委員会」が放送委員会法案を公表:政府から独立した特殊法人が放送事業を管理するという内容
  10月16日 ファイスナー調査課長代理が方針を示す。ファイスナー・メモ。①放送の自由、②不偏不党、③公衆に対するサービスの責任の充足、④技術的諸基準の順守の4原則が示される。
1948年 1月 放送法案草案作成
  2月 GHQに第一次放送法案を提示。
  5月 民間通信局から第一次放送法案に修正意見。
  6月18日 第一次放送法案の国会提出(芦田均内閣):NHKと民放、放送委員会の設置、しかしGHQのプレスコードとラジオ・コードとそっくりな番組規律あり
  10月 芦田均内閣が昭電疑獄事件で総辞職
  11月 吉田茂内閣発足。第一次放送法案を撤回。独立行政委員会に反対とのこと。
  12月 GHQ法務局が、表現の自由の観点から、第一次放送法のニュース放送に関する原則の全文削除を勧告
1949年 3月 法案修正:ニュース放送に関する原則の全文削除
  4月5日 日本放送協会の顧問委員会である「放送委員会」消滅
  6月 逓信省が郵政省と電気通信省に
  6月17日 電気通信省が放送法案要綱を作成し、GHQに提出。放送委員会を廃止して放送行政を電気通信大臣の権限に移し、重要事項に限り総理大臣が任命する「放送審議会」に諮るという内容。
  6月18日 官房長官および電気通信大臣がGHQ民間通信局バック局長とファイスナー氏と会談。①無線規律委員会(Radio Regulatory Commission: RRC)を総理大臣の下に作ること、②一般放送局を許可すること、③プログラム編集の自由を認めること、④日本放送協会の改組が重要点としてあげれられ、放送法案の次期国会提出が求められる。いわゆるバック勧告
  10月12日 放送法案を含む電波三法案の閣議決定
    GHQ民政局(GS)から委員会の独立性について問題提起。委員会の決定を内閣の決定に完全に従属させる条項(委員長が国務大臣とする条文、および委員会と内閣との関係に関する条文)があり、電波監理委員会が政権をもつ主要な政治権力の支配下に置かれることになるとの指摘
    日本とGHQとの間で激しい議論
  12月5日 マッカーサーから吉田首相に書簡。委員会は、いかなる党派的勢力、その他の機関による直接的統制または影響を受けないものとしなければならない点が不完全と指摘
    日本政府は、電波監理委員会を総理府の外局に設置し、内閣の再議の要求権の規定を削除するなどして、委員会の独立性を確保するよう法律案を修正
  12月22日 電波三法の国会提出
    その後番組編集準則について修正。併せてNHKの規定を民放にも準用
1950年 4月26日 電波三法国会成立
  5月2日 電波三法の公布
  6月1日 電波三法施行
1951年 9月 サンフランシスコ講和会議
  10月26日 講和条約を衆議院承認
  11月18日 講和条約を参議院承認
1952年 2月12日 閣議で木村行政管理庁長官から行政機構改革案構想
  2月21日 電波監理委員会に内容伝達:各種の行政委員会は、審判的機能を主とするものを除き廃止し、その事務は各省に分属。電波監理委員会は廃止。
  4月28日 サンフランシスコ講和条約発効
    閣議で「行政機構改革に関する件」として正式決定:電波監理委員会は廃止。郵政省に内局として電波監理局を設け、次長2人を置き審議機関を付置
  8月1日 電波監理委員会廃止

 

放送法制定の歴史については、関連記事(Related Posts)を参考にしてください。

放送法制定の歴史を理解するための必読本4選プラスα

f:id:informationlaw:20161004063144j:plain

放送法制定の歴史について書いたときに、いろいろな論文のほかに参考になった本が4冊ある。

  • 『資料・占領下の放送立法』放送法制立法過程研究会編(財団法人東京大学出版会 1980年)
  • 『戦後資料 マスコミ』日高六郎編(日本評論社 1970年)
  • 『ドキュメント 放送戦後史Ⅰ 知られざるその軌跡』松田浩(双柿舎 1980年)
  • 『日本の放送のあゆみ』日高一郎(人間の科学社 1991年)
  • 『20世紀放送史』日本放送協会編(NHK出版 2001年)


『資料・占領下の放送立法』放送法制立法過程研究会編(財団法人東京大学出版会 1980年)

放送法制立法過程研究会が、昭和51年秋から1年半にわたって、占領下の放送法制の立法過程について資料を収集、調査した研究の成果を出版した本。 基本文書、立法に携わった人物の証言、国会の議論が3つの部に分かれて掲載されている。

基本文書は、英語文書が多いが和訳が付されており、GHQと日本側のやり取りが時系列でわかるように並べてある。GHQによる放送法の立法の指示から、放送法案の作成、その後の国会での修正までをつぶさに追っている。きわめて貴重な資料集である。

放送法制立法過程研究会の委員は、次のように、放送法制に携わった元官僚、郵政省の官僚のほか、著名な研究者、NHK、民放連の研究所長である。あいうえお順で、肩書は本のはしがきに書かれているものを転記した。 網島毅(元電波監理委員会委員長) 放送法案を国会に提出した際に提案理由を述べている。 伊藤正己(東京大学教授・当時) のちの最高裁判事 内川芳美(東京大学教授) 片岡俊夫(NHK総務室長) 鴨光一郎(郵政省電波管理局放送部長・当時、のちに沢田茂生) 駒木之雄(日本民間放送連盟研究所長・当時) 佐田一彦(NHK総合放送文化研究所放送学研究室長) 塩野宏(東京大学教授) 荘宏(元電波管理総局文書課長) 中西秀三(元NHK国際局渉外部長} 永野明(郵政省電波管理局放送部企画課長・当時) 長浜道夫(元NHK理事) 野村義男(元電波監理総局法規経済部長)

この資料集の中で、どうしても判然としないのは、放送法の現在の4条1項の番組編集準則に相当する条文が作成された経過である。

続きを読む

放送法制定の歴史のススメ-⑤電波監理委員会の成立と廃止

f:id:informationlaw:20160930071328j:plain

放送法制定の歴史のススメ④では、国会審議での修正が番組編集準則に関係していることを見てきた。

informationlaw.hatenablog.com

今日は、電波三法が成立して新しい放送制度が始まった後わずか2年で起きた電波行政の大きな変化について考えてみることにする。電波監理委員会の廃止だ。

  • 電波監理委員会とは
    • 電波監理委員会の所掌事務
    • 電波監理委員会の委員の組織
  • ”放送法を襲った悲劇”
  • 行政委員会方式の先取り
  • 行政委員会方針をめぐる攻防


電波監理委員会とは

電波監理委員会とは、電波行政をつかさどる行政委員会だった。行政委員会とは、複数の委員による合議制を採り、行政部門から独立した形で行政権を行使する行政庁のことをいう。準立法機能や準司法機能を有することが多い。公正取引委員会や労働委員会などを思い浮かべればイメージが沸くだろう。最近の例では、個人情報保護委員会がある。 電波監理委員会は、かつての総理府の外局に設置された。総理府とは、2001年に内閣府に改組されたが、内閣総理大臣の事務や各行政機関の総合調整に関する事務を担当した行政機関である。

電波監理委員会が設置された理由、委員会の性質について、網島毅電波監理長官が衆議院電気通信委員会(1950年1月24日)で、電波管理委員会設置法案の趣旨を詳しく説明している。少し長くなるのだが、当時の考え方がよくわかるので引用してみたい。

電波監理委員会設置法案は、電波の管理及び放送の規律に関する行政の重要性にかんがみまして、その担当行政機関といたしまして、アメリカ合衆国の独立行政委員会の制度にならいましたところの、電波監理委員会を総理府の外局として設けようといたしますものでございまして、この委員会の設立とともに、現在右の行政の担当機関でありますところの電気通信省の外局たる電波庁は、これをこの委員会の事務局でありますところの電波監理総局に、移行させようというものでございます。

この法案の趣旨を簡單に御説明申し上げますと、現在、電波管理及び放送の規律に関する行政は、電気通信省の所管とせられておりますが、御承知のごとく電気通信省は管理行政のために、みずから多数の無線施設を建設し、維持し、運用しているものでございます。この二つの機能は、完全に相違したものでございまして、両者を同一の機関で行いますことは、電波管理行政の真に公平な実施を確保いたします意味におきまして、妥当を欠くうらみがあるのでございます。従つて電気通信省の外に、電気通信省、国家公安委員会、海上保安庁、気象台その他の国家機関、都道府県等の自治体、並びに船舶無線施設者、漁業無線施設者、日本放送協会、日本国有鉄道等、すべての個人または団体の無線施設についての行政を行う機関を設けることといたしまして、それを各省に対して最も公平な行政を確保する必要も考慮いたしまして、総理府の外局として設けることにしたのでございます。

この行政機関をいかなる形で構成するかという点につきましては、第一に、電波管理及び放送の規律がきわめて公平に行われなければならないこと。第二に、そのためには一党一派、その他一部の勢力からの支配から分離したものでなければならないこと。第三に、その機関の政策には相当長期にわたつて、政変等によつて容易に変動しない恒久性を持たせるとともに、時代の変遷に伴つて漸進的に改まつて行く改変性をも與え得るようにいたしましてこの両者の調和を確保し得るようにしなければならないこと。第四に、その機関の機能といたしましては、前に電波法案の項で申し上げましたように、單に行政の執行ばかりではなく、半立法的あるいは半司法的なものをも果さなければならないことというようなことを考慮いたしました結果、委員会制をとることといたしまして、その委員長及び委員の任命、任命要件、欠格事項、任期、罷免、会議手続等につきまして、詳細な規定を設けた次第でございます。 衆議院電気通信委員会1950年1月24日会議録より)

この中で、”電波管理及び放送の規律をきわめて公平”に行わなければならないため、”一党一派、その他一部の勢力からの支配から分離した機関”にする必要があったと指摘されていることは、よく覚えておく必要があるだろう。

さて、電波監理委員会は、具体的にはどのような事務をし、どのような権限を持っていたのだろう。その事務や権限はずいぶん広く、法律では次のように書いてあった。少々古いのだが、放送について政府から独立した行政機関の設置を議論する際に参考になると思われるので省略しないで紹介する。

続きを読む